白湯は鉄瓶で作るのが最適。1Lで0.2mgの鉄分が摂れる!

鉄瓶で白湯を作ると、より多くのミネラル(鉄分)が含まれている!

皆様はミネラルの摂取と聞いて何を思い浮かべますか?国民健康栄養調査の結果を見ると、ほとんどのミネラルは充足しているようですが [1, 2]、外食が多くなると男性ではカリウム、女性ではマグネシウムなどが不足しやすいと言った報告もされています [3]。また、月経のある女性の場合には月経血による鉄の不足が、鉄欠乏性貧血の原因になることもあり、月経のある女性は鉄分が多く必要です [2]。

普段の食事からしっかりとミネラルを摂取できるとよいのですが、女性は男性と比較してどうしても食べる量自体が少ないので不足のリスクは高くなります。特に鉄が不足している女性は多く、気をつけたいところです。

そこで、この記事では、鍋ややかんなど、調理器具から抽出される鉄分について紹介をしたいと思います。

女性にだいじな鉄分。調理器具が摂取量に影響する!

女性は意識して鉄の摂取を心がけましょう

早速ですが、鉄分はどのような方が意識して摂取すると良いのでしょうか?実は、鉄分は男性よりも女性で不足しやすい栄養成分です。

鉄分は血液中の酸素を運搬する役割があります。つまり鉄分が不足すると、全身に酸素が行き届かなくなるのですが、脳の酸素が不足してしまうと、鉄欠乏性貧血です。

鉄分が女性で不足しやすいのは経血が原因です。ただし、月経の有無にかかわらず、女性は男性よりも食べる量が少ないこともあり、栄養成分が不足しがちですので、意識して鉄分を摂取するようにしましょう。

鍋などの鉄器から鉄は水に抽出される

私たちの体に不可欠な鉄分ですが、鉄分は鉄製の鍋ややかんなどの調理器具を使って料理を行うと、料理に抽出されることが知られています。

白湯でも鉄分は抽出されますが、pHが低く、食塩が多い料理では、鉄分の抽出がより多くなるそうです [4]。料理の中ではビーフシチューのような煮込み料理で抽出量が多くなるようでした。

また、鉄瓶で1 Lの白湯を作る実験では、1 Lあたり約0.2 mgの鉄が抽出されていたそうです。

pHと食塩で鉄分の溶出が変わる理由

鉄の水溶液への溶出については、かなり古くからたくさんの研究がされているようですが [5]、一般的には抽出液が中性から遠いほど鉄分は多く溶出されるようです。

酸性よりも、アルカリ性のほうが抽出されやすいようですが、アルカリ性の食品は酸性の食品に比べると少ないので、食酢など、酸性の食品のほうがイメージしやすいと思います。アルカリ性の食品の例としては、中華麺に使われる”かんすい”や、掃除などでも活躍する”重曹”などがあります。

一方で、食塩が鉄の抽出量を高くしたのは、食塩による腐食効果です。腐食と聞くと、悪い印象を受けてしまうかもしれませんが、食塩は吸水性が高く、鉄器などにつくことで吸水し、鉄の溶出を早めます。

浜辺で潮風に当たると、鉄がさびやすいというのは聞いたことがあるかもしれませんが、これが食塩の腐食効果の例です。

調理方法の違いで鉄鍋からどのくらい鉄分が溶出されるか

では、次に料理の違いで、どのくらい鉄分が溶出されるかを研究論文から紹介したいと思います [4]。ここで紹介する研究は、鉄鍋で玉ねぎのみじん切りを炒めた時の鉄分の溶出量を調べた研究です。

基本的には玉ねぎのみじん切り100 gに水50 mLを加えて、水分が無くなるまで約5分間炒めて、鉄分の溶出量を測定しています。

そして、主な結果は次の通りでした。

  • 水50 mLだけのときには0.08 mg溶出
  • 水の代わりに油を加えると0.03 mg溶出
  • 水の代わりに1%の食塩水50 mLを加えると0.40 mg溶出(約5倍)
  • 水の代わりに1%の食塩水50 mL、トマトケチャップ15 gを加えると1.04 mg溶出(約13倍)
  • 水の代わりに1%の食塩水50 mL、食酢10 mLを加えると2.26 mg溶出(約28倍)

この結果を見ると、酸性の食材のトマトケチャップや食酢の効果が明らかに大きいことが見られます。1日に必要な鉄の量は年齢や性別によっても異なりますが、月経のある女性で約8.5 mgが目安となり [2]、今回紹介した試験のように調理器具から2 mg以上も鉄分の摂取量を底上げできるのはかなり影響が大きいです。

一方で、鉄瓶を使って白湯を作る場合には、1 Lの水から白湯を作るとだいたい0.2 mg程度の鉄分が抽出されるようでした。また、この鉄分の量は沸騰時間を30分まで伸ばしてもほとんど変化がありませんでした。

さいごに

いかがでしたか?水に含まれるミネラルを気にされる方は意外と多いと思いますが、調理器具から鉄分という発想はなかったのではないでしょうか?

今回紹介した事例では飲用水よりも食塩やケチャップ、食酢などを使った料理で、より抽出効率が高かったですが、飲用水の摂取も毎日のことなので、この積み重ねは大きいです。

近年はステンレス素材の鍋も一般的になり、鉄鍋や鉄瓶を使う家庭も少なくなっていますが、鉄分の不足が気になっていたという方は、調理器具の違いだけでこのように鉄分の摂取量が底上げできるかもしれないので、試してみると良いと思います。

  1. 厚生労働省, 令和元年国民健康・栄養調査 結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
  2. 厚生労働省,  日本人の食事摂取基準(2020年版) https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
  3. Matsumoto M, Saito A, Okada C, Okada E, Tajima R, Takimoto H. Consumption of meals prepared away from home is associated with inadequacy of dietary fiber, vitamin C and mineral intake among Japanese adults: analysis from the 2015 National Health and Nutrition Survey. Nutr J. 2021;20(1):40. Published 2021 Apr 23. doi:10.1186/s12937-021-00693-6
  4. 今野暁子, 及川桂子, 調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化, 日本調理科学会, 2003; 36(1):39-44. https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience1995/36/1/36_39/_pdf/-char/ja
  5. 佐藤教男, 岡本剛, 鉄系金属の水溶液中への溶解, 日本金属学会会報, 1966, 5(9):590-598, doi:https://doi.org/10.2320/materia1962.5.590

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食品会社で働く研究者。PhD(博士、医科学)。2児の父。普段は食品の機能性研究を行っています。食品の機能性、公衆衛生、栄養疫学、腸内細菌、統計解析などに興味があります。Twitterやブログで研究の紹介などを行っています。